あらすじ
<*公募用ネタバレ有りあらすじ>
魔法の名門アストレイン侯爵家に生まれながら、十歳のある日を境に魔法が使えなくなったセラフィナ・アストレインは、「王立学院設立以来の優秀な落ちこぼれ(ハイスペック・ブービー)」という不名誉な二つ名を持つ二十三歳。魔法省の文書管理課で三人の癖つよ老魔法師のもと、魔法の研究職として働いている。魔法は使えないものの、魔力の流れや妖精の姿が「視える」という特異な力を持つ彼女は、今日も王城の廊下で幼馴染のルーク・ヴェルトナーに嫌味を言われていた。
ルークは宰相を輩出する名門ヴェルトナー侯爵家の次男で、第三騎士団に所属する凄腕の魔法騎士。社交界では「銀の夜光蝶」の異名を持つ色男だ。学院で再会して以来、セラフィナにだけ当たりが強く、彼女を苛立たせ続けている。そんなある日、世話好きの伯母からルークとの縁談を持ちかけられたセラフィナ。断固拒否するのだが、騎士団から遺跡調査の同行騎士としてルークが派遣されてくる。婚約の問題を先送りにした中、二十日間、二人きりの旅が始まった。
ゴート地方の森の奥深くに眠る「妖精の祠」。調査を進めるうち、二人は隠された祭壇に閉じ込められてしまう。祠の壁に刻まれた古代文字、立ち寄った集落に伝わる祝唄、床に浮かび上がる巨大な魔法陣。全ての謎が指し示すのは、精霊王とその妻にまつわる伝承だった。
実はルークは、妖精と心を通わせ人の心を読む力を持つ精霊王の末裔。常に黒い革手袋をしているのは、素手で触れると相手の思考が流れ込んでしまうためだ。そしてセラフィナが十歳で魔法を失ったあの日、ルークの力が覚醒。その瞬間、彼女は精霊王が妻に与えるという「月の力」を受け取っていた。二人の運命は、あの日から既に絡み合っていたのだ。
閉じ込められた暗闇の中、ルークはセラフィナに全てを打ち明ける。魔法を失わせてしまったかもしれないという罪悪感、人の心の汚さを見続けてきた孤独、そして子供の頃から変わらない、ただひとつの想い。セラフィナの魔法を「視る」力と、ルークの心を読む力を合わせれば、門を開くことが出来るかもしれない。力を「呪い」と呼び、傷ついているルークになかなか言い出せないセラフィナ。だが、食料も物資も乏しい中決断しなければならない。心の全てを曝け出すことを恐れながらも、信頼を選んで、彼女は手袋を外した彼の手を自ら握りしめる。
妖精たちの祝福の中、二人は力を合わせて門を開いた。そこで明かされた真実は、セラフィナが魔法を「失った」のではなく、妖精の国を支える礎として「変わった」のだということ。落ちこぼれだと思い続けてきた自分の力が、ずっと意味を持っていたのだと知ったセラフィナは、王都に帰還後、ルークに告げる。「私は不幸せじゃない。今のままでも、ちゃんと幸せになれるわ」と。
そして幼い日に交わした小さな約束が、故郷のレナの木の下でようやく果たされる。