あらすじ
小鳥遊琴音は、小学六年生。頼まれると断れず、「いいよ」と本心を押し込めてしまう性格だ。ある日、帰り道で迷い込んだのは、古いレンガ造りの不思議な建物――「感情の保管庫」。そこは、言えなかった言葉や渡せなかった想いなど、“未完了の感情”が形となって集まる場所だった。
館の主である毒舌な白うさぎ・ジョセフィーヌ、規律を重んじる人形マリオ、そして鍵を探す佐伯と出会った琴音は、訪れる子どもたちの感情が引き起こす奇妙な現象に立ち会うことになる。怒りは暴れる家具となり、不安は終わらないチャイムとなり、嫉妬は持ち物を奪い合う歪みを生む。解決の鍵は、どれも「本当の気持ちを言葉にすること」。琴音は少しずつ、自分の心とも向き合い始める。
しかし、館の奥には“処理されなかった感情の残り”が集まり、黒いうさぎの姿をした異質な存在が現れる。それは、琴音自身が長いあいだ抱え続けてきた後悔の象徴だった。向き合うことから逃げ続けた結果、館そのものが崩壊を始め、ついには琴音自身が「排除対象」として追い詰められてしまう。
追い込まれた琴音が選んだのは、「ごめんなさい」ではなく、本当の気持ちを伝えること――「寂しかった」「嫌だった」。その言葉によって、止まっていた感情は初めて“終わり”へと動き出す。
現実の世界に戻った琴音は、母に対しても同じように本音を伝える。完璧ではないけれど、確かに届く言葉。未完了の感情はすべて消えるわけではない。それでも、向き合い、選び、言葉にすることで、人は前に進むことができる。
これは、言えなかった気持ちと向き合い、“自分の言葉”を見つけていく少女の物語。