あらすじ
「エンリアス、お前という奴は……本当に、どうしてこうも困らせるのだ?」
深々と溜息を吐いたのはこの国の第一騎士団団長補佐にして、婚約者であるライナルト・グロース公爵令息。
顔には隠しようもない疲労。呆れが滲み出ている。
見目麗しい顔が歪む度、心の中で静かに舌打ち。
こちらのセリフだが呆れた顔をされると苛つく。
「困らせる、とは?ただ、己の仕事に忠実であったまでですが」
ライナルトの眉間の皺がさらに深くなる。
背後には今日も今日とて、悪評を囁きにきたのであろう使用人たちが怯えたように好奇に満ちた瞳でこちらを見つめていた。
ああ、本当に鬱陶しい。彼らの視線は生ぬるい泥水のようにへばりつく。
エンリアスは生まれながらにして侯爵家の長女でありながら、灰被りのような扱いを受けている。
実妹はいつも毎日のように全員にか弱い精神を押し出して周りから同情を買うからこのように家の中の空気を澱ませるところがあった。
いつまでもそれを許すことはないというのに。