あらすじ
伯爵家に嫁いだエルネリア・ファルゼは、夫の屋敷で一度も食卓に座らせてもらえなかった。
義母は「躾」と称して彼女を立たせ、使用人のように皿を運ばせる。夫は若く美しい詩人を屋敷に招き、愛人として囲いながら、文学好きのエルネリアを「気味の悪い女」と笑った。実家もまた、「本など読んでいるから嫌われる」と彼女を責めるだけだった。
離縁後、行き場を失ったエルネリアは、印刷と出版を営む小さな版元ノルク活版社に拾われる。そこで彼女は校正係として働き始め、誤字や矛盾を見抜く目、文章を整える手、物語の芯を読み取る力を見出されていく。
版元主人のロシュヴァン・ノルクは朴訥で口数の少ない男だが、彼女のために食卓へ椅子を一脚増やす。
「ここでは、立って食べる者はいない」
その一言から、エルネリアの人生は少しずつ組み直される。
本、活版、校正刷り、赤字修正、献本、差し替えられた原稿、盗まれた詩。紙の上に残された証拠が、彼女を奪った者たちを静かに追い詰めていく。
これは、食卓に座ることすら許されなかった女が、言葉を直し、人生を刷り直し、愛される席へたどり着く物語。