あらすじ

サントリーホールの控室。開演十五分前。 世界的指揮者・恩田律子は、実の弟であり天才ピアニストの徹を殺害した。 返り血を拭い、スペアのドレスを纏い、彼女は万雷の拍手の中へ――。 だが、完璧なアリバイを誇る彼女の前に現れたのは、音楽の「お」の字も知らない、くたびれたトレンチコートの男だった。 「いやあ先生、私にはブラームスなんて、難しい子守唄にしか聞こえませんで」 警視庁捜査一課、佐古誠。 姪に無理やり着せられた最高級のスーツをコートで隠し、彼は執拗に、素人特有の「無邪気な質問」を繰り返す。 嘲笑う律子だったが、彼女はまだ気づいていなかった。 その男が、彼女の嘘を暴くためだけに、不眠不休で楽譜を貪り、ピアノを叩き、音楽という名の「地獄」へ足を踏み入れていることを。 一週間後。 佐古が口にしたのは、弟・徹が死の間際に放った『未完成の和音』の正体。 二人が育った北陸の廃村に眠る忌まわしい記憶。 そして、ブラームス『間奏曲117-1』の譜面に隠された、あまりに残酷で美しい「遺言」。 「先生。あなたのタクトは、弟さんの悲鳴をかき消すためにあったのですね」 すべてを学び終えた捜査官が、最後に「調律」したのは、姉弟が一生をかけて奏でた凄絶な愛の連なりだった。 ミステリの醍醐味と、人間の業が織りなす圧倒的な読後感。 今、最期の演奏会が始まる。

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カクヨム
カクヨム2026/05/10
  • 現在の作品残響のタクト―ブラームスを愛した殺人者と、灰色の調律官―