あらすじ
介護職員として働く菅原宗久(スガワラムネヒサ)は、仙台・作並の高齢者施設「アイの家」で、日々入居者たちの食事介助やオムツ交換に追われながら暮らしていた。そんなある日、親しくしている先輩職員・斎藤から、酒の席で奇妙な話を打ち明けられる。
『死ぬタイミングを、自分で決められる薬がある。』
半信半疑のまま過ごしていた宗久だったが、後日、斎藤から実際に“薬”を受け取るためのIDとパスワードを渡される。それは、介護の現場で数多くの“老い”と“死”を見続けてきた宗久の心を静かに揺さぶっていく。
一方で宗久には愛する妻と幼い子供たちとの穏やかな日常があった。
新築の家に置かれた小さなコーヒーの木。何気ない幸福に包まれながらも彼の中では「自分はどう老いて、どう死にたいのか」という問いが少しずつ膨らんでいく。
やがて季節は流れ――。
目を覚ました宗久は、2070年のベッドの上にいた。老いさらばえた身体には人工肛門と導尿カテーテルが装着され、かつて幼木だったコーヒーの木は天井近くまで成長している。
記憶を失いかけた晩年の中で、宗久は写真に映る人生を見つめながら、“死期”の意味を静かに思い返していく――。