あらすじ
殺人事件の裁判が始まった。
被告人は無罪を主張している。
検察側証人も、弁護側証人も、誰一人として嘘をついていない。
提出された証拠に改竄はなく、鑑定結果も正しい。
弁護士も検察官も、法廷で意図的な虚偽を述べていない。
それなのに、証言を積み重ねるほど事件の輪郭は崩れていく。
「殺されたはずの人物」は、生前、周囲の人間にいくつもの“真実めいた嘘”を残していた。
その嘘は、遺言でも告白でもない。
雑談、頼みごと、謝罪、噂話、何気ない一言。
死者はもう訂正しない。
だから法廷では、生きている人間だけがその嘘を真実として語り続ける。
これは、誰も偽証していない裁判で、真相だけが偽物になる物語。