あらすじ
遺品整理士・浅井航平が足を踏み入れたのは、孤独死した老人・山中誠治の異様なほど清潔なアパートだった。家具も趣味の品も一切ない、まるで自らを罰する檻のような「灰色の部屋」。そこで航平が見つけたのは、20冊を超える通帳と、毎月欠かさず続けられた巨額の送金記録だった。
振込先の名義は、佐藤華。
彼女は26年前、日本中を震撼させた「目黒女児連れ去り事件」で妹を亡くした被害者遺族であり、今は小児科医として働いている。
「顔も知らない足長おじさん」の恩恵で、貧困から救われ、夢を叶えた華。しかし彼女の心は、支援者の手紙に刻まれた「妹の分まで完璧に幸せになれ」という、逃げ場のない愛の言葉に蝕まれ続けていた。
なぜ、名もなき工員だった山中は、己の人生のすべてを華に捧げたのか?
事件の夜、犯人の車が走り去るのを物陰から見ていた「空白の15分」に、一体何が起きていたのか?
航平が辿り着いたのは、謝罪でも慈悲でもない、人間の深淵に潜む「支配という名の贖罪」だった。
視点が入れ替わるごとに善意が反転し、最後の一行で世界が再び塗り替えられる――。
止まった時計を動かすのは、愛か、それとも絶望か。