あらすじ

アルベリア王国の公爵令嬢レティシアは、五年前に伯爵家次男エドワード・クレインと政略結婚した。才能も家柄も平凡な夫を支えるため、彼女は公爵家の資産を密かに動かし続けた。上司への根回し、同僚への贈賄、戦場で使う強化魔法薬、情報屋への報酬――エドワードの輝かしい出世の裏には、すべてレティシアの緻密な工作があった。
だがエドワードは気づかない。いや、気づこうとしなかった。彼の目はいつしか「聖女」と呼ばれる平民女エルミラに向いており、五年目のある朝、レティシアに離縁状を突きつける。「お前では聖女の隣に立てない。無能な妻とはここで終わりだ」と。
レティシアは涙一つ見せなかった。
代わりに、一冊の帳簿を差し出した。
五年分の工作費用、魔法薬代、情報収集費、社交費。年利十二パーセントの利子を加えた総額、金貨四千九百枚。「離縁を望むなら構いません。ただしこちらを公爵家への借金としてお返しいただきますわ」
請求書は瞬く間に宮廷中に広まり、エドワードの出世の実態が白日の下にさらされた。英雄と称えられた男の功績がすべて妻の金で買われたものだったと知った貴族社会は騒然とし、かつて彼を持ち上げた人間たちは一斉に距離を置き始める。
そこへ現れたのが、隣国ガルディア王国第一王子ライナルト・ツァイルだった。武闘派として名高く、剣一本で戦場を制すると謳われる彼は、レティシアの幼馴染でもある。結婚を機に疎遠になっていた五年ぶりの再会にもかかわらず、「やっと自由になったな、レティ。迎えに来た」――遠慮のない笑顔で求婚してくる彼に、レティシアは呆れながらも、胸が揺れるのを抑えられない。
事態はさらに動く。エルミラの「癒しの力」の正体が、レティシアが継続購入していた高級魔法薬によるものだったと発覚。魔法薬の供給が絶たれたエルミラは力を失い、「聖女」の称号を剥奪される。エドワードの不正も芋づる式に表面化し、貴族位剥奪の審議が始まった。
すべてを失いかけたエドワードがレティシアに縋りつき「やり直したい」と懇願する場面で、彼女は静かに、しかし一語一語に重みを込めて言い放つ。「貴方が私に向けてくれたものは、何でしたか」
その言葉が、五年間の終わりだった。
ライナルトの求婚を受け入れたレティシアは、隣国の王妃として新たな人生を歩み始める。エドワードは貴族位を剥奪され、エルミラは詐欺の廉で国家的な賠償問題に巻き込まれる。そして婚礼の日、ライナルトは誓いの言葉を前に人目もはばからず目を潤ませ、「お前が綺麗すぎるのが悪い」と言い訳をする。
レティシアは笑った。五年ぶりに、心の底から。

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アルファポリス
アルファポリス2026/05/09
  • 現在の作品『聖女に乗り換えて離縁?結構ですわ。ただし私が裏で払い続けた出世費用と魔法薬代、利子込みで金貨四千九百枚、きっちり回収させていただきます』