あらすじ

十年間、夫に愛されなかった。 それでも宰相夫人を続けられたのは、外交の仕事にやりがいがあったからだ。 少なくとも、そう思い込むことで毎日を凌いできた。 各国大使との晩餐を差配し、禁忌食材を暗記し、条約交渉の下準備を整える。 それは全て夫の実績として記録され、妻の仕事と呼ばれたことは一度もない。 ヴィクトリアは、自分の名前を持たない十年間を過ごしてきた。 ある春の夜会で、王太子が愛人を正妃に据えると宣言した。 涙を流す正妃の元に、元帥夫人と学院長夫人が駆けつける。 四人の妻が控室に集まったとき、ある事実が浮かび上がった。 この国の外交は宰相夫人が回している。 軍の式典は元帥夫人が仕切っている。 学院の入学審査は学院長夫人が担っている。 妻たちが手を引けば、国の上層部は一週間で止まる。 断罪はしない。 復讐もしない。 ただ、辞める。 それだけで足りるのだと、ヴィクトリアは気づいてしまった。 夫たちが当然のように妻に預けてきた仕事の重さを、不在が証明する。 妻たちの辞表が、この国で最も静かな反乱になる。 夫は不貞をしなかった。 暴力も振るわなかった。 十年間、ただ何もしなかっただけの男だ。 空になった執務室で、その男は何に気づくのか。 気づいたとき、隣にはもう誰もいないかもしれない。

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小説を読もう2026/05/09
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