あらすじ
社交ダンス界の至宝――そう称えられた山城葛葉(やましろ くずは)にとって、世界は常に「自分が支配するもの」だった。圧倒的なカリスマ性と、周囲をねじ伏せるような強引なリード。ジュニア最強の座に君臨していた彼は、しかし全日本ユース決勝の夜、不慮の事故によってすべてを失う。
数ヶ月後。失踪していた葛葉が、かつての親友であり最大のライバル・財前蔵之介の前に現れたとき、その姿は「少女」へと変貌していた。
「見るなと言っただろ」
吐き捨てる言葉は以前のまま、男臭く、傲慢で、ひどく傷ついていた。
男性としての立場を奪われ、ダンスを奪われ、絶望の淵にいた葛葉に、蔵之介は狂気とも取れる提案を投げかける。
「だったら、俺と組むか」
かつて「最強のリーダー同士」ゆえに交わることのなかった二人が、男女のペアとしてフロアに立つ。それは、葛葉にとって屈辱的な「フォロー(受容)」への転身を意味していた。
慣れないヒール、視界の低さ、そして何より、自分より大きな蔵之介に「身を委ねる」という恐怖。
「触んな!」「お前が怖がると、全部止まるんだ」
衝突を繰り返す中で、葛葉は知ることになる。リードとは単なる支配ではない。パートナーの輝きを増幅させ、共に未知の領域へ踏み込むための「信頼の引力」なのだと。
やがて二人のダンスは、誰が導き、誰が従っているのかも判別不能な、異常なまでのシンクロを見せ始める。
世界王者の影、突きつけられる世界の壁、そして葛葉の身体に訪れる「ある選択肢」。
「男へ戻るか、このまま踊り続けるか」
葛葉が最後に見つける答えは。
そして、世界大会の静寂の中で二人が交わす「リードは譲らない」という誓いの真意とは。
これは、性別の壁さえもステップに変えて駆け抜ける、二人の「相棒」による魂の再定義の物語。