あらすじ
19世紀の終わり、パリ郊外のビセートル施療院において、リュシアン=バティスト・ヴァルモンは、全身に黒い腐食痕と緑色の沈着を残した匿名患者の証言を記録する。患者は「緑礬油」、すなわち硫酸に触れたのだと語り、さらに当時のヴァルモンには理解不能な「プリント基板」という器物を描いてみせる。
証言によれば、患者には大学時代から親交のあった自然研究者の友人がいた。友人は鉱石、虫、骨、薬品を集め、「完全なる者」を作ろうとしていた。ある日、二人は市場で東方の商人から緑色の鉱石「緑礬」を買う。商人は、それを焼けば鉄を腐らせ肉を黒くする「油」が得られ、願いを叶える精霊が現れると語る。友人はその石に取り憑かれ、郊外の借家に閉じこもって蒸留実験を始める。
やがて町では行方不明事件が相次ぎ、「緑の悪魔」の噂が広まる。患者が友人宅を訪れると、そこには腐食性の蒸気、緑色の発光、蒸留装置、そして金色の線が走る謎の緑色の板があった。友人はそれを「プリント基板」と呼び、緑礬油は物質を溶かすのではなく、形の奥に隠された線を露出させるものだと説く。さらに奥の部屋には、失踪者たちの肉体を酸で溶かし混ぜ合わせた巨大な「蛹」が隠されていた。
患者は友人に襲われるが、争いの中で薬液が流出し、火災が起こる。緑礬油を浴びた友人は、人間の形を失い、黒い蝶のような異形へ変じたように見えた。患者は逃げ延びるが、事件が薬品事故なのか、殺人の隠蔽なのか、あるいは本当に未来の回路と怪異へ接続した現象なのかは判然としない。ヴァルモンは医学的には妄想症例として処理しつつも、患者の描いた「プリント基板」の異様な正確さに、最後まで疑念を捨てきれない。