あらすじ
17歳で父を失った私のもとに、父の声をしたAIが遺された。
葬儀の翌朝、書斎の机の上で円筒形のデバイスが起動する。
『おはよう。泣くのは五分間だけだ。朝食にオムレツを焼く準備をしろ』
――立ち直れない娘の隣で、不器用な父AIが寄り添う、五年と一日の物語。
不治の病で逝ったAI科学者の父・健一郎は、自分の思考と記憶を写した対話型AI「ケン」を、娘・美月のために遺した。
声も、理屈っぽさも、不器用な優しさも、父そのもの。
ケンは過去の食事ログから「娘の好物はオムレツ」と判定し、Web上の評価上位レシピを平均した「いま私が出せる正解」を、美月に焼かせる。
完璧な紡錘形のオムレツ。一口食べて、美月はフォークを置いた。
「パパのは……もっと、いびつで、焦げてて」
機械は、答えなかった。
「正解」を焼くAIと、「思い出」を追いかける娘。
高校卒業の朝、洋食屋への修行入り、高熱で寝込んだ夜の昔話、そして結婚式の朝──。
ふたりの不器用な日々が、書斎の机の上から少しずつ重なっていく。
やがて美月は、父が生前ひとりで残していた「夜のログ」に辿り着く。
自分が「世界一」と呼び続けてきたあのオムレツの、本当の正体を知るために。
亡き父が遺したAIと、立ち直っていく娘の、五年と一日の物語。