あらすじ
舞台は架空の大国・朱雀帝国。
主人公・李 珠蘭(リ・ジュラン)、十七歳。かつては名門・李家の姫君として蝶よ花よと育てられた少女。けれど彼女には誰にも言えない秘密があった——叔父・李 玄洋(リ・ゲンヨウ)が営む薬種問屋に出入りするうち、薬草、毒物、人体のしくみといった「理系の知」に魅せられ、刺繍や舞よりも乳鉢と天秤を愛するようになってしまったのだ。
「女が薬の話など、はしたない」 そう叱られ続けた珠蘭は、ある日決意する。 ——顔を、爛れさせよう。
叔父の薬棚から得た知識と、西域から伝わった**「面皮(めんぴ)」**と呼ばれる特殊な化粧術。膠(にかわ)と粉、薄絹で作り上げた爛れの皮膚は、本物にしか見えない。婚姻の話は次々に流れ、ついに「不吉な娘」として叔父の家へと追い出された珠蘭は、薬の研鑽に明け暮れる日々を手に入れた。
醜い顔は、銀細工の半面の仮面で隠す。月と兎を象った、叔父が「お前の唯一の道楽だ」と苦笑しながら作らせてくれた仮面である。
そんなある日、得意先へ薬を届けた帰り道。早く帰って新しい処方を試したい一心で近道を選んだ珠蘭は——人攫いに襲われ、気がつけば後宮に売られていた。
爛れた顔、口のきけぬふりをする下女。 誰も彼女を「李家の姫」だとは気づかない。
けれど後宮では、奇妙な事件が続いていた。 寵妃の赤子が次々と弱っていく。香炉から漂う甘い香り。井戸に浮かぶ白い花。 そして、誰も死んでいないはずなのに、確かに香る——死の匂い。
「……これは、毒だわ」
仮面の下で、珠蘭の唇が静かに弧を描く。 姫君の仮面を脱ぎ捨てた少女は、今度は爛れの仮面を被って、後宮の闇を解き明かす。
そして彼女の聡明さに気づいてしまった男が、ひとり——皇帝の甥にして謎多き宦官・蒼月(ソウゲツ)。
「お前、その仮面の下、本当に醜いのか?」
——その嘘は誰にもばれては、いけない。