あらすじ

天正十年六月二日、京都・本能寺。 織田信長のそばに仕える近習、森蘭丸は、出立を前にした静かな夜の寺で、茶道具、書状、寝所の支度を整えていた。 小姓の役目とは、主君の声を待つことではない。声になる前の気配を読み、命じられる前に動くことだった。 だが未明、寺の外の闇が変わる。 揃いすぎた足音。火縄の匂い。門外に翻る桔梗の旗。 明智光秀、謀反。 本能寺は城ではない。 堀も石垣もなく、畳、障子、廊下、堂宇、庭木がそのまま戦場となる。 信長の命を救う道が失われていく中で、蘭丸は気づく。 自分が最後に守るべきものは、主君の命ではない。 信長の首を敵に渡さぬこと。 その死を、明智の手柄にさせぬこと。 天下人の終わり方を、炎の中で整えること。 弟たちとともに火の回る本能寺に残った若き近習は、命令なき最後の奉公へ踏み出す。 信長の最期に最も近くいた者は、何を見て、何を見せなかったのか。 本能寺の変を、森蘭丸の沈黙と火から描く戦国短編。

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カクヨム
カクヨム2026/05/08
  • 現在の作品火中の小姓