あらすじ
大神洲帝國、保安總局。
そこでは、銃声よりも先に印章の音が響く。
一枚の名簿、一行の備考、一つの分類が、人間の行方を決める。
國防局より保安總局東部第七保安聯隊へ転属した若き上等兵、加藤登。
彼に与へられた最初の任務は、不適格者を見極め、名簿を作ることだった。
だが、彼が見たものは、単なる内部監査ではなかった。
國防局長官をめぐる疑惑。
江戸川倉庫區畫の火災事故。
山下元信中佐の失踪。
中井幸三上等兵の死。
そして、保安總局参謀本部附・渡邉公威中尉が推し進める、恐るべき「粛清技術論」。
反逆者を罰するのではない。
反逆者になる前に分類する。
事件ではなく兆候を見る。
備考は保存し、分類は進行させる。
灰色であること自体を、危険と見なす。
加藤は、見たものだけを書く。
見えぬものは書かない。
しかし、書かれたものは、やがて人の形をして死んでゆく。
記録は人を救ふのか。
それとも、人を殺すのか。
これは、帝國の沈黙の中で始まった、第一次大粛清の記録である。