あらすじ
昼休み、同僚に冷やかされた。
「日曜、家に誰もおらんのやろ。ほな言うたらええやん——うち、誰もおらんねん、って」
笑って流したつもりだった。
でも、その夜の電話で、私は自分から口にしていた。
「今度の日曜、うち、誰もおらんねん」
彼は「うん、行くわ」と答えた。それだけだった。
日曜の朝、私はいつもより早く起きて、部屋を片付けた。
椅子の背にかけた白いものを、私はその日、片付けなかった。
片付けてしまったら、今日がただの日曜になってしまう気がした。
午後、彼が来た。
私は彼を、居間ではなく自分の部屋に通した。
ドアを閉める音が、いつもより大きく聞こえた。
棚から二つのカップを出して、コーヒーを淹れた。
彼の視線が、ほんの一瞬だけ椅子の背に止まった。
でも、彼は何も言わなかった。私も、何も言わなかった。
——
彼が帰ったあと、台所にはコーヒーカップが二つ残っていた。
口紅の跡は、思ったより落ちにくかった。