あらすじ
静岡県掛川市。新幹線の轟音と茶畑を抜ける風が交差するこの街で、出井亜門(イデア)は休業状態の町工場を独り守っていた。かつて大手メーカー『Nパワーズ』との共同開発で、父と共に心血を注いだ「高効率巻線設計」を盗まれ、工場は倒産、父は心労でこの世を去った。以来、稀代のアイデアマンだったイデアの心は冷え切り、趣味のドローンいじりに没頭する日々を送っていた。
そんな彼の前に、ハイヒールで工場の油汚れを突き進む女が現れる。元ベンチャーキャピタリストの志村詩子だ。
「あなたの技術で、遠州灘の止まった風車を回してほしい。地域独立電源の再始動、これが私の起業プランです!」
「情熱で風が吹くなら苦労しない。帰れ」
突き放すイデアだったが、詩子が差し出した資料を見て目を見開く。それは、宿敵Nパワーズが「低速では使い物にならない」と見捨てた旧式の特許公報だった。
詩子の持つ「折れない情熱」というエネルギーを、イデアの「精密な歯車(ギヤ)」という技術で増幅させる。二人の奇妙な共闘が始まった。
彼らが狙うのは、既存の特許網を物理的に回避(バイパス)する、超高トルク型ギヤドモーターの開発。しかし、それを嗅ぎつけたNパワーズは、圧倒的な資本力と狡猾な法務戦略で二人の前に立ちはだかる。
「その技術は我が社の知財侵害だ。即刻、試作機を破棄せよ」
卑劣な警告状に震えるイデア。だが、詩子は不敵に微笑む。
「イデアさん、技術者の戦い方は設計図だけじゃない。……ここからは、契約書(NDA)が武器になる時間です」
世界的な精密ベアリングメーカー『MMC精密』を味方に引き入れ、一行は新幹線が駆け抜ける高架下の町工場で、知財の穴を突く「究極の一手」を組み上げていく。
これは、技術を奪われ、夢を捨てたエンジニアが、一人の猪突猛進なパートナーと共に、知恵とプライドをかけて巨大企業の牙城を崩す、胸熱な知財リベンジ・サクセスストーリー。
「やる気と技術を兼ね備えた、最高のモーターを見せてやる」
掛川の風が、今、逆襲の歯車を回し始める。