あらすじ
「……いいか、よく聞け。これは、かつて『静寂の審判者』などと呼ばれた男が、ただ静かに茶を啜り、定年まで生き延びるためだけに足掻く……そんな、取るに足らない記録だ」
俺の名はエドガー・ギルバート・クインシー。
人類最高峰の精神熟達者(マインドマスター)……なんてのは過去の話だ。今の俺は、地下三階の掃き溜めで、埃と禁忌の遺物(ゴミ)を数える窓際部署の主。俺の全知全能は今、職務の隠蔽と、定年退職金の死守のために注がれている。
だが、計算が狂った。……ああ、盛大にな。
焦って結んだ「死ぬまで解除不能」の師弟契約。俺の目の前に現れたのは、深淵を覗く聖女……ではなく、脳内がメロンパン一色で埋まった無能少女・ルナだった。
期限内にこいつを育てなければ、俺たちは二人まとめて再利用(リサイクル)――つまり、処刑。
だが、ルナの奴が口を開けば出てくるのは「お腹空きました、ししょー!」の一言だけ。
……やれやれ。世界を救う方が、まだマシだったかもしれん。
こうなれば、最後まで化かし通してやるさ。
弟子の無能も、国家の査定も、世界の理(ルール)も……俺の「ズル」で、すべて書き換えてやる。
胃薬はまだあるか? ならば、問題ない。
「立てば芍薬、座れば牡丹、口を開けばメロンパン。
――ルナ、修行(ズル)の時間だ。そのパン屑を公文書の上にこぼすなと言ったはずだぞ」