あらすじ
午前五時、給食センターの厨房に最初に灯りをつけるのは、いつも私だった――。
梨原茜、二十五歳。給食センターの調理補助。七年先輩の桐生美波に手柄を奪われ続け、誰にも見られない洗い場の床を、毎朝ひとりで磨いてきた。
ある冬の朝、配送便の事故で目を覚ますと、そこは王宮の中央厨房。下女として与えられた洗い場で、茜はそっとつぶやく――「あの、混ざると、お腹を壊しますから」。
色分けまな板。先入先出。検品票。ロット番号。三十秒の手洗い。
誰にも気づかれない、地味で当たり前の「仕込み」が、王国を蝕む瘴気と疫病を解く鍵となっていく。祖母から受け継いだ古い料理ノートは、なぜか古代救済式の手順と一致していた――。
毒見補佐を頼む第一皇子レイノルド。辺境砦で薄いスープをすする砦長と書記の老人。王宮の老下女マルタ。
そして、桐生先輩と同じ顔をした、偽聖女イレーナ。
七つの大鍋に火を入れる夜、茜は声には出さず、こうつぶやく。
「これは、儀式じゃなくて、料理です」
下処理は、ぜんぶの土台です。誰も見てないけど、料理は嘘をつかないからね――祖母の声を抱えて、彼女はもう一度、自分のまな板の前に立つ。
誰にも見られない仕事が、誰かを確かに救うかもしれない。
地味で温かくて、少しだけ切ない、優しい異世界お仕事ファンタジー。
※この物語は小説家になろう、カクヨムで掲載されています。