あらすじ
高校二年生のいつきは、将来への希望を見出せず、真っ白な進路希望調査票を抱えて立ち止まっていた。大人たちが求める「職業」という名の窮屈な箱に自分を押し込めることに違和感を抱き、自分の輪郭さえも春霞に溶けてしまいそうな、ひどく曖昧な不安の中にいた。
放課後、逃げるように訪れたのは、那珂川を見下ろす高台・安徳台。苛立ちに任せて調査票を投げ捨てようとしたその時、いつきを呼び止めたのは、樹齢を重ねた巨大なクスノキの「声」だった。
「お前の足元に重なっている、果てしない時間の層を見せてやろう」
その言葉を合図に、現代の景色は色彩を失い、意識は深い歴史の底へと沈んでいく。それは、単なる過去への回想ではない。かつてこの丘で悩み、祈り、生きた名もなき人々との邂逅の始まりだった。
悠久の時を越え、幾重もの命の鼓動(とどろき)に触れるなかで、いつきは自分という存在の「根」を見つけ出すための旅に出る。