あらすじ
婚約破棄は、これで五度目だった。
王太子ユリウスに「愛する人ができた」と告げられるたび、エレノアはやり直してきた。一度目は泣き崩れ、二度目は完璧な令嬢を目指し、三度目は復讐に走り、四度目は感情を殺して人形になった。
それでも——結末は、何一つ変わらなかった。
五度目の婚約破棄の夜、エレノアはついに悟る。
「何をしても、この結末は変わらない。ならば——何もしない」
怒らず、泣かず、ただ「承知しました」と言って背を向けた。王都にも、実家にも戻らず、誰も自分を知らない小さな町へ。
そこには、評価も役割も肩書きも何もなかった。ただ朝が来て、パンの焼ける匂いがして、子供が笑って、知らない誰かと空の話をする——それだけの日々があった。
一方、王都では静かに綻びが広がっていく。エレノアが見えないところで支えていたものが、一つ、また一つと崩れ始めて。
やがて王太子は、遠い町で穏やかに笑う元婚約者を見つける。
「戻ってきてくれ」
「……私は、あなたがいない方が幸せなの」
復讐しない。勝ちに行かない。ただ、離れる。それが最大の——自由だった。