あらすじ
「今日も元気か?」
花屋の息子である俺が、小学生の頃から大切に育ててきた一株のアサガオ。
冬を越しても枯れず、年々妖艶さを増していくその花には、ある異変が起きていた。
――雄しべが、消えたのだ。
自ら受粉することを拒み、ただじっと俺の助けを待つような姿。
母が浮かべる、何かを含んだ柔らかい笑みの意味を、俺はまだ知らなかった。
変貌は、ある熱帯夜に訪れる。
むせ返るような花の香りに包まれた寝室。
動かない四肢を縛り上げるのは、蛇のように蠢く緑の蔦。
月光に照らされた俺の体の上に、それは跨っていた。
体中に花を咲かせ、蔓を尻尾のように揺らす、人ならざる少女。
無口な彼女が、受粉の熱に浮かされた瞬間にだけ漏らす、震えるような囁き。
「……種子《こども》……つくろ……?」
それは、育ての親への純真な愛情が、狂った執着へと変容した合図だった。
一滴の蜜、一粒の種を巡る、人間と植物の背徳的な共生記録が始まる。