あらすじ

亡き父の沈黙と、夏の港に置き去りにされた少女・千紘の記憶に触れた相沢湊は、冬の終わり、再び瀬戸内の港町・春口へ戻る。 宿を営む三崎汐里のもとに届いたのは、母・澄江を知る島の老人からの短い便りだった。そこには「冬の便があるうちに来てほしい」とだけ記されていた。 湊と汐里は、春口から列車と船を乗り継ぎ、志々島のさらに先にある小さな島を訪れる。そこで明らかになるのは、澄江が春口の人である前に、島の家名を持つ人間だったという事実、そして春口と島々を結ぶ移動の網の中で、千紘もまた“預けられ、動かされる子ども”として生きていた可能性だった。 さらに、澄江はかつて「届かなかった一通の手紙」を確かめるために何度も島を訪れていたことが判明する。その手紙は、湊の父が書いたものだったのかもしれない。だがそれは、宛先のほうが先に移り変わってしまったために、島の旧姓宛のまま留め置かれた可能性があった。 島の名で呼ばれることを恐れながらも、呼ばれないままでは千紘を置いてきた気がしていた澄江。 春口で暮らしながら、島の名と春口の名のあいだに生きた母の姿を、汐里は初めて一人の人間として受け取り直していく。 一方、湊もまた、春口が単なる“戻る場所”ではなく、帰り先を一つに決められない人々の港であることを知る。 海と鉄道のあいだで、名を変え、家を変え、それでも古い呼び名を失わずに生きる人々。 『島影をわたる風』は、島を出た者、島へ親類を残した者、そして帰れない名を抱えた者たちの静かな人生を描く、シリーズ第三作である。

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小説を読もう2026/05/06
  • 現在の作品潮待ちのレール ― 島影をわたる風 ―