あらすじ
物語紹介:未完成のリング
「いいよ。……乗ってみる?」
彼女が500万円で買ってきたのは、伝説の名車「悪魔のZ」――
……の形をした、土に還る寸前の茶色い鉄の塊だった。
絶句する僕をよそに、彼女は聖杯を見つけた冒険家のように目を輝かせる。
それは世間一般の経済観念からすれば「狂気の沙汰」かもしれないけれど、
ボロボロの車体を愛おしそうに撫でる彼女の横顔に、僕は抗いようのない説得力を感じてしまう。
カビと埃、そして古い油の匂いが立ち込める車内。
びくともしない重いステアリング。
指先を黒く汚しながら、理想を形にしていく果てしない時間。
今はまだ、何も始まっていない。
けれど、この錆びついた鉄の円環(リング)が、いつか本当の「指輪」に変わるその日まで。
完成しなくてもいい。
僕はその隣の特等席で、彼女の無謀な夢にどこまでも付き合っていくと決めたんだ。
「手伝うよ、俺も。どこまでも」
これは、錆びた夢を二人でなおしていく、世界で一番不器用で、一番純粋な「プロポーズ前夜」の物語。