あらすじ
「安心救命救急センター」――。
その温和な名に反して、そこは「一秒の迷い」が数万円の損失と一人の死に直結する、乾いた戦場だった。
理想に燃える新人医師・戸松ヒカルは、配属初日に絶望する。
搬送された患者が死んだ数秒後に「コンビニパスタの割引」に一喜一憂するベテラン医師・一葉ユウ。
患者の苦痛よりも「ベッドの回転率」と「訴訟リスク」を優先し、死すらも書類として淡々と処理する鉄面の事務員・黒瀬ミドリ。
そして、修羅場の合間に冷え切ったコンビニ弁当を無造作に詰め込むスタッフたち。
ヒカルは彼らの「不謹慎」な態度に激しい拒絶感を覚えるが、過酷な現実が容赦なく彼の理想を削っていく。
自業自得な理由で運ばれる急患、理不尽な怒声を浴びせる遺族、そして常に付きまとう「命の選別」。
「笑ってないと、まともな判断ができなくなるんだよ」
一葉のその言葉の真意を知る頃、ヒカルの味覚もまた、消毒液と冷めた米の味に馴染んでいく。
彼らが飛ばすブラックジョークは、決して命を軽んじているわけではない。それは、絶望の深淵に引きずり込まれないために、彼らが纏う唯一の「防護服」だった。
コンビニの棚から選ぶ弁当が、その日の彼らに残された唯一の「自由」である場所で。
不謹慎な笑い声と共に、今日も「安心」できない夜が明ける。
「ここって、“助かった人の物語”だけが外に出る場所なんですよ。残りの死体は、私が全部、紙切れにして差し上げますから」
(事務員・黒瀬ミドリの言葉より)