あらすじ
オイラは、富士山のふもとで生まれた。
最初に会ったとき、
あの人は少し不思議そうな顔でオイラを見ていた。
それでも――連れて帰ってくれた。
それからの毎日は、
にぎやかで、あたたかくて、
ときどきさみしくて、でもやっぱり楽しかった。
いろんな場所を歩いた。
いろんな人に出会った。
名前を呼ばれるたびに、
オイラはちゃんとここにいるんだと思えた。
やがて、体は少しずつ言うことをきかなくなった。
走ることも、思いきり息をすることも、
だんだん難しくなっていった。
それでも、そばにはいつも、あの人がいた。
透明な箱の中で、
静かな時間を過ごしながら、
オイラは考えていた。
この十年は、どんな時間だったんだろうって。
答えは、きっと難しくない。
オイラは、ただ――
一緒に生きていた。
それだけで、十分だった。