あらすじ

「8,797通の中に、一枚だけ——違う書類があった」 九条エンターテインメントのオーディション担当スタッフ、浅井麻衣、27歳。 ある日の午後、書類を処理する手が止まった。 志望動機欄にはこう書かれていた。 「知りたいことがあります」 それだけだった。特技欄は空欄。写真は加工なし。笑顔を作っていない、一枚の顔。 気になった。それだけだった——のはずだった。 女性アイドルグループが三百を超える飽和市場の中で、 六色のカラーシステムを武器に上位をキープしてきたゆめいろシフォン。 結成から一年、グループに陰りが見え始めた。 プロデューサーの九条冴子は言う。 「ゆめいろシフォンに今必要なのは——事件です」 8,000人規模のオーディションが始まった。 麻衣は書類を処理し続ける。 一日に270通。締切前日には500通を超える日もある。 夢を持った応募書類が、データとして積み上がっていく。 その中に、あの書類の子がいた。 二次審査の会場で、初めて声を聞いた。 足音が、しなかった。 三次審査では、踊るのを見た。完璧だった。なのに——何かが引っかかった。 最終審査で、乱入者を一秒で制圧した。 麻衣は、モニターの前で立ち上がっていた。椅子が後ろに飛んだ音がした。気づかなかった。 合格者は、一名。 櫻井桃霞。 格闘の実績を持ち、感情を持たないまま—— 担当カラーを奪われた先輩メンバーの敵意を受けながら、 ゆめいろシフォンのセンターに立った少女。 そして彼女には、ただひとつの動機があった。 「あの笑顔が、何なのかを知りたい」 幼い頃にテレビで見た、不揃いな笑顔。 完璧ではなかった。それでも——消えなかった、あの感覚。 アイドルは、笑う。 歌って、踊って——笑う。 それが仕事だ。 でも——桃霞は、その笑顔の「意味」を、まだ知らない。 「なぜ笑うのか」 その問いが、六色の女の子たちを、静かに揺さぶっていく。 ※格闘×アイドル×群像劇。運営スタッフ・麻衣の視点を軸に、8,797人のオーディションから桃霞のデビューまでを描く。 ※「彼女はまだ、笑い方を知らない ――無表情の天才と、観測者の記録」を2話まで読んで頂いた方、大変申し訳ございません。新たに1話から書き直します。こちらをご覧ください。

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小説を読もう2026/05/05
  • 現在の作品このアイドル、どこかおかしい。一人だけ、笑っていない。