あらすじ

翻訳家の木村朔子は、十年前の四月に突然失踪した当時の恋人・安西遼からの「桜前線の終点で待っている」という手紙を抱え、毎年桜前線を追って北上する旅を続けている。遼と再会できる保証はなく、旅の目的は習慣化していた。静岡の桜の下で、朔子は就職活動に挫折し旅に出たばかりの青年・橘悠と出会う。悠は行き先も告げていない朔子に対し「北海道まで一緒に行きたい」と申し出、二人の奇妙な同行が始まる。  旅の道中、悠は朔子のペースを乱すことなく静かに寄り添い続けた。朔子は悠との対話を通じ、自分の旅が遼を探すためでも、諦めるためでもなく、ただ「続いている」という状態にあることに気づかされる。記録することを避けるために手紙を開かずにきた朔子に対し、悠は何も記録せずただその場を眺めることで景色と向き合っていた。宮城での夜、悠は「今年(の旅)は違う気がしませんか」と朔子に問いかける。  五月、北海道の終点の町で二人は満開の桜を眺める。遼の姿は今年もなかった。朔子は「来年も来る」と宣言し、悠にも同行を促す。かつて自身が北海道へ向かうことを言い当てた悠の正体や、彼が手紙を所持している事実は明かされないまま、朔子は新たな予感と共にベンチを立つ。一人残された悠は、ポケットから遼の名が記された封を切っていない手紙を取り出し、散る桜を見上げるのだった。二人の旅は、遼という過去を抱えながらも、終わることのない新たな季節へと踏み出していく。

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エブリスタ2026/05/04
  • 現在の作品前線を待つ女