あらすじ
幕末——。身長七尺(約210cm)の巨躯と左利きという異形の身体を持つ一人の男がいた。その名は大石進(おおいし すすむ)。後に「天保の三剣豪」と謳われ、大石神影流を創始する男の物語である。
進は幼い頃から「化け物」「物干竿」と蔑まれた。身長が高すぎて正眼の構えが取れず、左利きゆえにどの流派も門を閉ざす。「左を直せ」「お前のような巨体に剣は振れぬ」——何度も何度も追い返され、進はついに剣を捨て故郷・筑後国柳川に戻る。
剣への未練を断ち切り、農民として生きようとした日々。ところがある日、農作業で吊るした藁束を突く動作の中に、ふと閃きが走る。
「——石を、吊るす。」
誰にも師事できず、どの流派にも入れぬなら、自分の剣を自分で作るしかない。巨躯も左利きも「直す」のではなく、この身体だからこそ到達できる一本を——。
こうして始まった異形の修行。吊るした石を左の一本で繰り返し突く。毎日何百何千と。手の皮は剥け、骨が軋み、血が滲む。それでも三年、五年——誰よりも十倍の努力を積み重ねた先に、進は「左片手突き」という誰も見たことのない必殺の型を体得する。
そして江戸へ舞い戻った進を待っていたのは、剣の高みに立つ絶対的な壁——剣聖・男谷精一郎との運命の対決だった。
初戦、進は完膚なきまでに打ちのめされる。才能の差、修業の質、全てにおいて格の違いを見せつけられる。だが進は——もう逃げない。この左の一本に人生のすべてを懸けて、再び精一郎の前に立つ。
努力は、才能に届くのか?
全てを否定された男が、誰も真似できない量と質の努力で己だけの剣を創り、剣聖に挑む——実在の幕末剣豪・大石進(種次)が辿った、孤独と不屈の軌跡。