あらすじ
――でも次は、自分で決めたいんだ。全部。
佐伯航、四十三歳。正直イケオジ、と言えなくもない。
離婚して二年。子供たちはふたりとも成人して独立した。
二十年以上一緒にいた麻美とは、ある夜、リビングで缶ビールを飲みながら静かに話をした。
お互い、ただ長い勤めが一つ終わったような、そんな穏やかな疲労感だけが残った。
転職も多かった。あまり仕事にこだわった人生でもなかった。
航にとって仕事は、ただ飯食って生きていくために必要なものとしか思っていない。
手を抜くわけではない。ちゃんとやる。だがそれだけだ。
出世欲はない。カリスマもない。
退屈じゃない。不幸でもない。でも、何かは足りてない。
そんな航にも、夢は、あった。
ガキの頃に読んだファンタジー小説。
中学でハマったRPG。
大人になってもこっそり読み続けた転生モノのラノベ。
会議室でくだらない報告書を読みながら、頭の片隅ではいつも剣と魔法の世界を旅する妄想。
——そして、待ち望んでいた転生トラックに撥ねられ、異世界の女神に出会う。
急がない。でも止まらない。
のんびり、だが確実に。おっさんの魔王ストーリーが、動き出す。