あらすじ
『川霧の娘』と呼ばれ、不吉だと疎まれてきた渡し守の娘・澪。どんな深い霧の中でも川の道筋が見える『霧読み』の力を持つ彼女は、三年間の婚約者・清史郎から「お前といると霧の中にいるようで息が詰まる」と婚約を破棄される。踊り子に心変わりした清史郎は、感情を表に出さない澪を「女らしくない」と嘲り去っていった。——泣いても、誰も受け止めてくれない。そう諦めていた澪の前に現れたのは、川向こうの醤油問屋『三河屋』の若旦那・蒼真。無愛想で怖い顔をした彼は、十年もの間、雨の日も風の日も、誰もが避ける霧の日でさえ、毎朝澪の舟に乗り続けていた。「お前の舟は、霧の日ほど安全だ」——誰も信じてくれなかった澪の力を、彼だけはずっと見ていた。婚約破棄を機に動き出す、不器用な若旦那の十年越しの想い。「今更戻ってきて」と言われても、もう遅い。私の舟が向かう先は、霧の中でも私を見つけてくれる人のいる岸だから。