あらすじ
樹海荒らし――遺品を換金する違法な稼業に手を染めて久しい「俺」は、ある日の荒らしから帰宅すると、拾った覚えのない子供の靴が鞄に混入していることに気づく。片方だけの、白い、汚れたスニーカー。サイズは小学校低学年ほど。どう考えても拾った記憶がなかった。
捨てても捨てても、翌朝には玄関に戻ってくる。燃えるゴミに出しても、川に投げ込んでも、百均のケースにテープでぐるぐる巻きにして捨てても、朝になればいつもの向きでいつもの場所に置いてある。五日目からは深夜に廊下から小さな足音が聞こえ始め、眠れない夜が続く。
師匠格のミヤケ先輩に相談すると「塩と一緒に燃やせ」と言われ試みる。炎の色がいつもと違う、解決したかと思った、しかし翌朝また靴が戻ってくる。先輩が直接引き取りに来て処分を試みるも、今度は先輩の家に靴が届く。
先輩に紹介された特殊清掃員の吉岡は、同種の呪物を過去に複数件目撃していた。仕事柄、死の現場で何度も見てきたという男の結論は一つだった――「元の場所に返すしかない」。
眠れない夜、俺は奇妙な夢を見る。小さな体が地面を引きずられている。大人の男の背中が見える。大きな木の前で止まり、体が浮き上がり、意識が薄くなる。視点が空中に切り替わり、木に吊るされた子供を見下ろす。その足元には靴が片方なかった。誰かの最後の記憶を見ているような夢だった。
翌朝、ミヤケ先輩と共に樹海へ向かった俺は、森の奥で靴を受け取りに来た何かと対峙する。それは朽ち果てた子供の霊だった。そしてその顔は――自分の幼少期に、恐ろしいほど似ていた。
靴を渡した。受け取った。それでも霊は森の奥に消えなかった。追いかけてきた。命からがら樹海を脱出し、家に帰りついた俺を待っていたのは、静かな玄関だった。靴はなかった。終わった、と思った。
翌朝、玄関に靴があった。
「樹海荒らし」シリーズ特別編。遺品を漁る男が、処分できない呪物と、樹海が隠していた子供の死の記憶に向き合う、日常侵食系ホラー。