あらすじ
【あらすじ】※物語のネタバレを含みます※
ミステリー作家の東堂一郎はこの日、女性にフラれていた。これで四度目だ。だが、彼に魅力がないという単純な話ではない。彼女たちは一様に「私を見て、本当に何も思わなかったの?」と言い捨てていくのだ。
不可解な言葉に不気味さを感じる東堂の前に、新たな女性が現れる。別れ話をしていた喫茶店の店員・笹塚絵美だ。東堂が手掛ける「西堂十三郎シリーズ」のファンだという彼女と話すうちに、傷ついた心が和らぎ、詰まっていた新作のアイデアまで湧いてくる。東堂の著作はミステリーでありながら、一番の魅力は毎作変わるヒロインという邪道な作品だ。それゆえ、ヒロイン像が浮かばない現状を打破するために、立て続けに何人もの女性と交流していたのだ。だが今、東堂は悩みから抜け出し、彼女をモデルに一作書き上げることを決めた。
執筆を初めてから数日、笹塚絵美から「西堂十三郎シリーズ」の聖地巡礼に行かないかと誘いを受ける。ファンとの個別交流は避けようとも思ったが、勝手にヒロインのネタ元にした負い目もあり、彼女とともに山林にある洋館風のホテルへ向かう。到着した東堂は先に来ていた笹塚の友人たちを見て愕然とする。そこにいたのは、東堂がこの短期間で交際し別れた女性たちだったのだ。
笹塚にハメられたと思った東堂だったが、話をするうちに蓋をしていた記憶が蘇ってくる。ホテルに集まった五人の女性たちは、東堂が執筆中に制作し、様々な理由でヒロインの座から降ろした「捨てたキャラ」だったのだ。彼女たちはヒロインになれなかったことを恨み、東堂を追い詰める。そして言った――「本物の東堂先生に相談した」と。
「東堂一郎」とは彼が死んだ叔父から奪った筆名だった。「西堂十三郎シリーズ」もまた、叔父の草稿を元に勝手に書き換え、世に出した盗作だったのである。最終的に彼は筆名も命も奪われ報いを受けた。そして「東堂一郎」の名は本物の主へ戻ったのだった。