あらすじ
理由も告げず、海沿いの古い港町に越してきた校正者の沖野静。文字の矛盾を見つけることを生業にする彼女は、ある夕方、岬の灯台のそばに佇む黒いコートの女性を見かける。
翌日また見た。翌々日、商店街でも見かけた気がした。
「気がした」という表現を使ったことに、静は引っかかる。私は普段、あまりそういう曖昧な言い方をしない。見たか見ていないか、どちらかだ——。
女性を調べようとするほど、手がかりは噛み合わなくなる。住民の証言は食い違い、写真は撮れず、記録には名前がない。そして静自身の語り口が、少しずつ変わっていく。
謎は解かれない。ただ、冬の港町で、何かが静かに揺れる。