あらすじ
七年間、侯爵家の庭を守り続けた。
土壌を調律し、蜂の道を設計し、枯れた土地を甦らせた。夫はそれを「庭いじり」と呼んだ。
契約結婚の期限が満了した朝、ティアは温室の扉を閉めて屋敷を去る。引き継ぎの書類は四冊。魔法の引き継ぎだけは、どうしても文字にできなかった。
翌日から、薔薇が枯れた。蜂が巣を捨てた。麦畑に害虫が湧いた。「たかが庭番」の不在が、領地の食糧基盤を根こそぎ揺るがしていく。
荒れ果てた辺境の伯爵領で、ティアは新しい土に手を触れる。条件をつけない寡黙な領主が差し出したのは、契約書ではなく、一本の果樹の苗だった。
崩壊していく元夫の領地と、芽吹き始める新しい土地。二つの場所の間で、ティアは問われる。置いてきたものへの責任と、根を張り直す自由は、両立できるのか。