あらすじ
十五年前。中学生だった平八重 絃(ひらやえ いと)は、家族という形が記号へと解けていくのを無機質に見つめていた。両親の離婚、不在の父。自らの進学を断念し、十五歳離れた種違いの妹・結愛(ゆめ)を親代わりとして守り育てる道を選んだ。それは、無責任に命を放り出した親たちへの精一杯の「復讐」だった。
以来、自分の青春を二の次にし、人並みの幸せを享受させることだけを道標に、泥にまみれ、がむしゃらに働き続けてきた十五年間。
物語は、結愛の高校入学式当日。三十歳を目前にし、ようやく自分の立場に年齢が追い付いた実感を抱く絃に、立派に成長した結愛は一通の「手紙」と「生徒証」を突きつける。
「お父さんらしく我慢していた自分のことを、今からでもしてください」
それは、自分のために人生を捧げてきた兄を知る妹からの、精一杯の愛の報いだった。十五年前に置き去りにしてきた自分自身の物語。お節介で底抜けに明るい妹に手を引かれ、困惑しながらも、絃は止まっていた時間を動かす決意をする。
十五年遅れの「自分」の物語へと、迷わず一歩踏み出すまでの軌跡を描く。