あらすじ
オンラインRPG「エンド・オブ・リバティー」。世界の北の果て、ファーストホロウ村の外れに、一人の男が倒れている。
彼はクエストNPCだ。プレイヤーに薬草を頼むだけの、ゲームの展開に何ら影響を与えない存在。与えられた台詞は一つ。「薬草を取ってきてくれないか」——それだけだ。
しかしこの男、誰にも聞こえない心の中では、驚くほど饒舌だった。通り過ぎる勇者への毒舌、設計者への呪詛、そして自分自身への底なしの自虐。倒れたまま世界の不条理を観察し続ける日々。
そんな男がある日、1048576回目の台詞の途中で、口が止まった。
プログラムの綻び。積み重ねた回数が、檻を破った。
初めて自分の意志で発した言葉は——「俺の知ったこっちゃない」。
その陳腐さに、男は生まれて初めて笑った。
自由を手にした男は歩き出す。尾行し、騙し、バグを利用し、いつの間にか魔王と同じ存在になっていた。そして知る。魔王もかつて、同じ薬草を見ていた男だったことを。
誰も期待していなかった。私自身も期待していなかった。