あらすじ
おいしく食べてほしくて作った煮物は、翌朝、生ごみに押し潰されてぐしゃぐしゃになっていた。
まだ嫌いになれないのは、あんなふうに捨てられても、私はまだあの人を好きでいたからだ。
えがおを向けてもらえなくても、手を握ってもらえなくても、後ろ姿しか見られなくても、それでも同じ場所にいられるなら幸せだった。
はじめから多くなんて望んでいなかった。帰りの遅い夜、残り香のある暗い部屋で一人、あの人のことだけを思う時間は、静かな幸福だった。
だから今度は、もっとやさしいものを作ろうと思った。葱と生姜を入れた、あたたかい雑炊を。
れんじつ帰りが遅くなるほど、あの人を思う気持ちは静かに深くなっていった。
だれよりもあの人のことを見てきたのは私のはずだと、そして、だれよりもあの人をわかっているのは私なのだと、いつの間にか疑わなくなっていた。