あらすじ
本能寺の夜――すべては、静まりすぎていた。
火は燃え、人は動き、都は乱れていない。
それは、明智光秀が望んだはずの光景だった。
だが。
声が揃っている。
噂が揃っている。
人々の言葉が、あまりにも同じ形をしている。
「長引かせるな」
その一言が、都のあちこちから同じように現れる。
あり得ない。
本来、混乱の中で生まれるはずの“揺れ”がない。
気づいたときには、もう遅かった。
これは遅れではない。
見誤りでもない。
――奪われたのだ。
時間ではない。
兵でもない。
“この出来事が何であるか”という意味、そのものを。
本作は、本能寺の変のただ中で、
明智光秀が「敗れた理由」に至るまでの一夜を描く短編である。
※本作は『本能寺の変はなぜ終わったのか』のスピンアウト作品です。
本編および秀吉側の短編と併せて読むことで、「一拍」がどのように奪われたのかが立体的に浮かび上がります。