あらすじ
古建築の測量技師・**林岩(リン・イアン)**は、古い図面の中に朱砂で「入る者は、幻の夢に入るがごとし」と記された奇妙な草稿を見つける。知的好奇心に導かれた彼は、独り深い密林へと足を踏み入れ、滝の裏側に隠された伝説の秘境へと辿り着く。
そこには、この世のものとは思えない燐光を放つ花々が咲き乱れ、白大理石の回廊の先には、壮麗な**「重檐歇山(じゅうえんきょくざん)造り」**の楼閣が静かに佇んでいた。しかし、その楼閣に掲げられた巨大な額には、一文字も記されていない。かつてここを訪れた芸術家が、そのあまりの神韻(しんいん)を前に「言葉はこの美しさを汚すだけだ」と悟り、筆を置いた証であった。
数字と線で世界を定義してきた測量師の林岩だったが、俗世を超越した光景を前に、自らの技法が無力であることを知る。振り返れば帰るべき道は花海の中に消え、彼は微笑みながら、色彩と霞が溶け合う光の中へと静かに歩みを進めていく。それは現実からの失踪か、あるいは至高の美との同化か――。測り得ぬ領域に足を踏み入れた男の、美しき終焉と始まりの物語。