あらすじ
睡眠導入装置「システマ・シエスタ」——通称【S2】の発明は、世界を変えた。S2とは「調律」というプロセスを通じて脳波を最適化し、副作用なく人を快眠に導くウェアラブルデバイスである。これにより世界中の人々は睡眠不足から解放され、疾病率は劇的に低下し、心身共に健康な生活を送れるようになった。しかしその中には調律を受け付けず、S2を利用できない人々も存在していた。
高校生の五十嵐伊織は、5年もS2を使えていない「不眠者」である。S2で眠ろうとしては拒絶反応で苦しみ、自身の無能感に懊悩する日々を過ごしていた。そんな彼の前に、S2調律師の同級生・萩原翠が現れ、不眠者を支援する「ゆりかご会」に誘う。彼はそこで、自分と似た境遇の人々——番場奏、高橋丈、柴崎祥子の三人と出会い、初めて心を開ける人間関係を築いていく。しかし翠の善意は、時に柔らかい暴力となって伊織たちを窒息させてゆく。番場は調律で怒りを消され、高橋は調律ミスで事件を起こし、柴崎は絶望の末、S2に逃避してしまう。安らかな眠りを齎すはずのS2が、なぜ人を苦しめるのか? S2社会そのものへ怒りを募らせた伊織は、母親への失望を機に家を飛び出す。
やがて伊織は、S2の開発者である間宮康夫と出会い、翠が彼の孫であるという事実を知る。伊織と康夫は立場は違えど、社会に同質の反感を抱く人間として、互いに孤独と絶望を共有する。そして康夫の協力のもと、彼の息子でS2社会の象徴である間宮善彦の暗殺を企てる。しかしテロは失敗し、康夫は自ら善彦を射殺した後、自死を試みる。その場に居合わせた翠は、新型S3を用いて、祖父を眠らせるように安楽死させる。
伊織は懲役15年の判決を受け、医療少年院に送られる。失意の日々を過ごすが、心を打ち明けられる仲間を見つけ、彼に自分の体験を物語ることで、情緒を取り戻していく。柴崎の手紙を読んだ伊織はかすかな希望を抱き、目を閉じる。