あらすじ
舞台は、三年間、二人が数え切れないほどの「バイバイ」を交わしてきた、いつもの踏切。
高校一年の春。内気で依存体質なナオミと、彼女を甲斐甲斐しく世話するミキ。一見、仲の良い親友に見える二人だったが、その関係性は少しずつ歪んでいく。ナオミの恋を応援するふりをして情報を操作し、彼女を周囲から孤立させ、自分だけが「救い」であるように仕向けていくミキ。彼女の目的は、ナオミを自分の手の中に独占することだった。
しかし、ナオミはただ守られるだけの存在ではなかった。ミキの嘘や策略をすべて見通した上で、彼女を試すような言葉を投げかけ、ミキの執着を静かに煽り続ける。踏切の警報音が鳴るたびに、二人の距離は近づき、そして電車によって分断される――その繰り返しの中で、狂気にも似た「愛」が醸成されていった。
卒業の日。踏切の前で、ついにミキは積年の想いを絶叫する。「ナオミが、好きなんだよっ!」
遮断機が上がり、静寂の中でナオミはミキを抱き寄せ、耳元で囁いた。
「やっと言った」
二人は初めて、手を振らずにその場を後にする。完璧な共依存の完成――。
……しかし、物語はそこでは終わらない。
十年後の同じ時間、同じ踏切。そこに一人で立つミキの姿があった。
あの日、抱きしめ合ったはずのナオミはそこにはいない。目の前に広がるのは、残酷なまでの空白。
ミキが抱えていたのは、白い花束と一通の招待状だった。
「十年も遅くなって……ごめん」
あの日、伝えられなかった本当の言葉を、ミキは誰もいない線路の向こう側へと捧げる。
それは、永遠に終わることのない「バイバイ」の物語。
未完成の桜が舞い落ちる中、踏切に残された封筒だけが、静かに音を立てていた。