あらすじ
あらすじ
父方の家系の女性だけが持つ、不思議な力。
高校生のNは、祖母譲りのその力によって、見えないものを見、残された感情や記憶に触れ、時に誰かの視点を通した夢を見ることがあった。
ゴールデンウィークを目前にしたある日、Nは夢の中で、懐かしい喫茶店と一冊のアルバムを見る。目覚めた直後、その喫茶店――喫茶店キャロットの娘・サヤカから、五年ぶりの連絡が入る。
幼いころ憧れていた優しいお姉さんとの再会。親友以上恋人未満の幼なじみ・ビーも誘い、三人は渓流へデイキャンプに出かける。だがその楽しいひとときの裏で、Nはサヤカの内側に沈む深い苦しみに触れてしまう。
続けて見る悪夢。写真に宿る母の記憶。
そして、五月の午後二時を指す“予知夢”。
これは、見えてしまう少女が、ある命を救うために走った春の記録。
喫茶店の懐かしい甘さと、冷たい渓流、そしてシトラスの香りがつなぐ、再生と祈りの物語。
登場人物紹介
N(エヌ)
本作の主人公。現在は三十代で、看護師兼・護身術道場の師範代。本編は彼女の高校時代の回想録。
父方の家系の女性にだけ現れる不思議な力を強く受け継いでおり、「見える」「聞こえる」「感じる」だけでなく、残留思念や記憶に触れたり、第三者視点の夢を見ることがある。
長身で中性的な見た目、運動神経抜群。冷静に見えて情が深く、大切な人のためには無茶もしてしまう。
ビー
Nの幼なじみで親友。のちの恋人。
日英ハーフで、深いブロンドの髪と緑の瞳を持つ美少女。生まれつき身体が弱かったが、手術を経て少しずつ健康を取り戻している。
Nに対する好意はかなりわかりやすいが、本人は案外隠せているつもり。スキンシップが多く、Nをいつもどきどきさせている。
怖いことがあっても、Nのそばにいることを選ぶ芯の強さを持つ。
サヤカ
喫茶店キャロットの娘で、Nが幼いころから憧れていた十歳年上の“きれいで優しいお姉さん”。
アウトドア好きで、勉強もできる才色兼備。大人になって有名アウトドアブランド企業に勤めるキャリアウーマンとなるが、職場で理不尽な出来事に巻き込まれ、深く傷ついている。
Nの夢と能力、そして母の祈りによって救われることになる。
タクト
Nの同い年の従兄。
野球とバイクが好きで、口数は多くないが、いざというときには何も聞かず手を貸してくれる頼れる存在。
Nの切羽詰まった様子を見て、説明を求めるより先にバイクを出す行動力の持ち主。
スチュアート
ビーの父。大学教授。
英国紳士を絵に描いたような人物で、いつも紅茶と英国式ジョークを忘れない。
Nとビーの気持ちをかなり前から見抜いており、Nを「娘のナイト」と呼んでからかうお茶目な一面も。
だが、本当に大事な場面では何も聞かず、二人を信じて見守る懐の深い大人。