あらすじ
灰が降る世界で、感情は濃くなりすぎると“色”となって人を壊す。
世界の均衡を保つ《調律の塔》で、あふれた感情を均し続けてきた少女イリスは、自分の過去も、自分が何者だったのかも知らない。ただひとつ、胸に欠けたまま残る“何か”だけを抱えていた。 
だがある夜、塔の中枢《白の核》が砕け、世界を歪める八つの「始まりの色」が外へ逃げる。
イリスの呼び声で目覚めたのは、触れた過剰を断ち落とす《無の器》アッシュ。彼はイリスを守る。けれどその力は、敵だけでなくイリス自身の感情や記憶まで薄くしてしまう危うさを持っていた。  
それでもイリスは塔の外へ出る。
逃げた色を追うために。
そして何より、自分の欠けを、自分の理由を、自分の色を取り戻すために。
旅の途中で出会うのは、感情の豊かさを信じる風の巫女ルーファ、幸福だけを強いるように笑う街、そして“悲しいのに泣けない”少女ノア。悲しみを分かち合う国エレリアで、イリスは初めて問い直される。――均せば救えるのか。それとも、奪ってしまうのか。  
これは、感情を削って世界を守ってきた少女が、感情なしでは救えないものに触れていく物語。
正義のためじゃない。
世界のためだけでもない。
自分の欠けを取り戻したいと願ってしまった少女の、壊れた世界を歩く旅が始まる。