あらすじ
加賀美瑠璃は、静かに世界を観察する少女だった。
瑠璃は相手の体格、音、視線、癖、呼吸、筋肉の動き、そして重心のすべてを観察し、柔道の理合いへと変換する。
その異常な精度は勝利への執念により開花し、やがて誰もが恐れるほどの『強さ』を生み出していく。
そんな瑠璃が唯一読み切れないのが、同級生の端田朱音。
朱音は粘り強く、しつこく、距離感がおかしくて、触れれば一瞬で体温が伝わる少女。
瑠璃の観察能力では測れない『執着する感情』を持つ存在だった。
そして、朱音にとって瑠璃は、一人で隠し続けていた孤独から救ってくれた唯一の存在。
二人は柔道部で互いを高め合い、やがて全国大会へ。
瑠璃の観察は限界を超え、もはや『技』ではなく『現象』と呼ばれる領域へ踏み込んでいく。
瑠璃を現実につなぎとめる唯一の重み。それが朱音であった。
その過程で、SNSに載った一枚の写真がバズり、二人は思いがけずモデルの世界へ足を踏み入れる。
柔道とモデル。二つの世界を現象として変革させていく瑠璃は、自ずと外の世界で注目を集めていく。
急激に集まった注目は、二人の距離を激しく揺さぶる。
朱音は焦る。瑠璃の視線が、外の畳へ向かっている。
瑠璃の世界は広がり続け、瑠璃の身体が、朱音の手の届かない場所へ運ばれていく。
瑠璃が現象として世界に広がるたびに、瑠璃の輪郭がぼやけて消えてゆく。
そんなことは許せない。置いていかれても、追いつけなくても。
絶対に離れない。絶対に瑠璃ちゃんの隣にいたい。絶対についていく。絶対に手を離さない。
愛情と執着。その気持ちだけが、引き裂かれる瑠璃と朱音を繋ぐ。
柔道、SNS、モデル、そして世界。
広がり続ける舞台の中で、二人は何度もすれ違い、何度も掴み合い、何度も選び直す。
これは、見つめる少女と、触れ合う少女。
互いを読み切れない二人が、それでも『ずっと二人で』あろうとする物語。