あらすじ
この町では、しあわせは目に見えた。人の胸からこぼれる淡い光の粒。それが、この世界における「しあわせ」のかたちだった。
寿命と引き換えに幸運を買い、幸せを売り買いできる世界。町の市役所には「寿命係」の窓口があり、人々は一分から何年分もの寿命を取引する。売った人の胸には翳りが残り、朝ごはんを食べても少し足りないような感覚が続く。それでも、誰かのために寿命を削ることを、人は選ぶ。
十歳の少年アオイは、幼なじみのソラとともに、そんな町で育った。クラスメートが誰かのために寿命を売ったこと。自分の父の胸に、ある冬の夜から遠い翳りが宿っていること。アオイは少しずつ、寿命の売り買いが単なる取引ではなく、愛の別のかたちであることを知っていく。
ある日、アオイは丘の上にそびえる時計台の裏に、色褪せた看板を見つける。
時 係。
寿命係とは別に存在するという、その係の正体とは何か。そして、この世界にはもうひとつ、ほとんど誰も知らない「禁断のルール」があるという。そのルールは、誰かを救うことができる。しかし同時に、取り返しのつかないものを奪うこともある。
アオイはソラや隣人のグスタフじいさんとの対話を重ねながら、時係の秘密、禁断のルールの代償、そしてソラが長年抱えてきた家族の傷に、少しずつ近づいていく。
しあわせとは、何か。光の粒が見える世界で、十歳の少年が辿り着いた答えは、言葉ではなく、夕暮れの玄関にこぼれたひとつの光のかたちをしていた。