あらすじ

吹雪の夜、山あいの村の雪は音を食べる。家まであと少しの道で迷い、そのまま帰れなくなる者もいた。 村外れの分かれ道に、五年間、毎夕ランタンを置き続ける老婆がいる。サラ婆さん。誰も帰ってこない息子を待っているのだと笑われても、彼女は火を絶やさない。 ある日、壊れたランタンを直した青年アレンは、その芯が、吹雪で帰れなかったサラ婆さんの息子トーマの上着を裂いたものだと知る。胸に近かったところだけは、どうしても裂けなかった――そう語る老母の言葉は、六年前、妹を「家まであと少し」の場所で亡くしたアレンの胸にも深く残る。 やがて村を襲った、この冬いちばんの吹雪。帰り道を失った母娘を救うため、アレンは灯りを追って雪の中へ踏み込む。その時サラ婆さんが裂いたのは、最後まで残していた上着の胸元だった。 帰れなかった子のための火が、今夜帰る子を返す火になる、冬の短編。

連載情報

ウェブ小説

配信言語
小説を読もう
小説を読もう2026/04/05
  • 現在の作品『帰れなかった息子の上着を裂いて』