あらすじ
吹雪の夜、山あいの村の雪は音を食べる。家まであと少しの道で迷い、そのまま帰れなくなる者もいた。
村外れの分かれ道に、五年間、毎夕ランタンを置き続ける老婆がいる。サラ婆さん。誰も帰ってこない息子を待っているのだと笑われても、彼女は火を絶やさない。
ある日、壊れたランタンを直した青年アレンは、その芯が、吹雪で帰れなかったサラ婆さんの息子トーマの上着を裂いたものだと知る。胸に近かったところだけは、どうしても裂けなかった――そう語る老母の言葉は、六年前、妹を「家まであと少し」の場所で亡くしたアレンの胸にも深く残る。
やがて村を襲った、この冬いちばんの吹雪。帰り道を失った母娘を救うため、アレンは灯りを追って雪の中へ踏み込む。その時サラ婆さんが裂いたのは、最後まで残していた上着の胸元だった。
帰れなかった子のための火が、今夜帰る子を返す火になる、冬の短編。