あらすじ
曾祖母の葬式の日。
柳原光一は、音の出ないはずのハーモニカから現れた、消えかけの付喪神・お琴と出会う。
長い年月を経た道具に宿る存在――付喪神。
だが光一には、なぜか百年を生き、やがて消えゆく彼らの“声”が聞こえてしまう。
壊れた懐中時計の爺様。
身体の弱い清さん。
そして――曾祖母様の形見のハーモニカの、お琴。
この家に残された付喪神たちは、皆すでに「終わり」を受け入れていた。
大切にしてくれた持ち主の死と共に、自らも壊れ、消えていくことを望んでいるのだ。
それは悲しみではなく、長い時間を共に過ごした者としての、静かな選択だった。
だが、お琴だけは違った。
「立派な付喪神になりたい」
そう願う彼女は、消えゆく付喪神たちの記憶と想いを受け継ぎ、守ろうとしていた。
失われていくものを、ただ見送るのではなく、残そうとするために。
人は二度死ぬ。
一度目は命を終えた時。
そして二度目は――誰の記憶からも忘れ去られた時。
忘れさせないために。
想いを消さないために。
お琴は、存在であり続けようとしている。
光一は、そんな彼女と共に、付喪神たちの願いと向き合っていく。
それぞれが抱えた記憶、後悔、そして静かな決意。
声なき存在たちの最期を見届けながら、光一は少しずつ「守ること」の意味を知っていく。
それは、誰かのために手を伸ばすということでもあった。
しかしその裏で、異変が忍び寄る。
赤い手毬のような“誰かの想い”。
そして、付喪神を喰らう“鬼”の気配。
それは、ただ静かに終わりを迎えるはずだった存在たちの運命を、歪めていくものだった。
それは、ただ見送るだけでは終われない現実だった。
鬼は学校に現れ、付喪神達を喰らっていく……。
光一は、付喪神を喰らう鬼と対峙し、守るために戦おうとするが――。
見えてしまう少年だけが、彼らの痛みを拾い上げる。
選ぶのは、関わらずに過ごすか、それとも――守るか。
これは、声なき存在たちの願いを受け取りながら、
一人の少年が「守ること」を学んでいく、ひと夏の物語。