あらすじ
破られた紙を元に戻すことが、なぜ誰かを追い詰めるのだろう。
公爵令嬢カティアには、前世の記憶がある。 日本で文書修復に携わり、一人きりで命を終えた記憶だ。
転生した先は、すべての公文書が手書きの羊皮紙で管理される王政国家。 そしてカティアは、王太子の婚約者だった。
王妃になるつもりはない。 この手にあるのは、紙を蘇らせる技術だ。 カティアは自ら婚約破棄を申し出て、王立文書院の修復士として歩き始める。
古い羊皮紙を洗い、崩れたインクを定着させ、判読不能な文字を蘇らせていく。 地味で孤独な仕事だった。
だが、修復を進めるうちに気づいてしまう。 損傷は経年劣化ではない。 誰かが刃物で文字を切り取り、水で偽装した痕跡がある。
修復士の義務は、損傷の原因を記録すること。 カティアは告発していない。 ただ、破られた紙を元に戻しただけだ。
それなのに、蘇った文書は静かに波紋を広げていく。 数字の不一致を追う青年が文書院を訪れ、 消されたはずの記録を読み、確信を深めていく。
やがて、文書を消した側の人間が動き始める。
カティアの手が蘇らせたものは、紙だけだったのか。